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第1回 宇宙誕生から138億年の旅の見取り図

目次

オープニング

今この瞬間、あなたの体を作っている原子。その一つひとつが、実は138億年という、気の遠くなるような時間をかけて生み出されたものだと言ったら、信じられるでしょうか。

少しだけ想像してみてください。今からおよそ138億年前、時間も、空間も、光も、物質も、まだ何ひとつ存在していませんでした。「無」ですらないかもしれない、私たちの言葉では言い表しようのない状態。そこから、この宇宙は——星も、銀河も、海も、花も、そしてあなたを含むあらゆるものは——始まったのです。世界中のどんな大河小説も、これほど壮大な出だしは持っていません。しかも、これは作り話ではなく、実際に起きた、ほかならぬ私たち自身の物語なのです。

あなたの骨をかたちづくるカルシウム。血液の中を流れ、酸素を全身へ運ぶ鉄。呼吸のたびに肺へ取り込む酸素。指先の細胞に含まれる炭素。これらの元素は、実は地球で生まれたものではありません。はるか昔、宇宙のどこかで赤々と燃えていた「星の内部」で、気の遠くなるような核融合の果てに作られたものなのです。

そして、その星が寿命を終え、大爆発を起こしたとき、作られた元素は宇宙空間へと撒き散らされました。それが、長い長い時間をかけてふたたび集まり、太陽になり、地球になり、やがて——あなたになった。つまり私たちは、文字どおり「星のかけら」からできている。これは美しい比喩ではなく、物理学と天文学が突き止めた、まぎれもない事実です。

夜空を見上げたとき、星は「遠い他人」のように感じるかもしれません。けれど本当は、あなたと星は、同じ源から生まれた、いわば家族のような関係なのです。このシリーズでは、その壮大な家族の歴史——宇宙が生まれたまさにその一点から、あなたがこの動画を見ている今この瞬間までを、全100回にわたってたどっていきます。ようこそ、138億年の旅へ。

138億年という時間の途方もなさ

まず、この「138億年」という数字と、正面から向き合ってみましょう。138億年。数字としては書けても、その長さを本当に実感するのは、ほとんど不可能です。私たちの人生は、長くてもせいぜい100年。国の歴史でも、たかだか数千年。人類が文字を発明してからでも、5000年ほどにすぎません。138億年は、そのすべてを軽々と飲み込んでしまう、まったく桁違いの時間なのです。

たとえば、こう考えてみましょう。もし1年をたった1秒に縮めて数えたとしても、138億年を数え終えるには、なお138億秒——およそ437年もかかる計算になります。一世代を30年とすれば、十数世代の人々が、生まれてから死ぬまでずっと数え続けても、まだ終わらない。それが138億「年」という時間の重さです。とても、頭の中だけでイメージできるものではありません。そもそも私たちの脳は、これほど大きな数を、そのまま受け止められるようにはできていないのです。だからこそ、これから紹介するような『実感するための工夫』が、どうしても必要になります。

そこで、この途方もない時間を、なんとか実感するための、とっておきの方法を使ってみましょう。

宇宙カレンダー ── 138億年を1年に縮める

それが、天文学者カール・セーガンが広めた、有名な「宇宙カレンダー」という考え方です。宇宙の全歴史138億年を、ちょうど1年、365日にぎゅっと圧縮してみるのです。すると、それぞれの出来事が、何月何日に起きたことになるでしょうか。

1月1日の午前0時ちょうど。ここで宇宙が誕生します。ビッグバンの瞬間です。しかし、そこからしばらくは、星さえ存在しない、暗闇の時代が続きます。最初の星たちが宇宙に灯りはじめるのは、1月の後半になってから。私たちが住む天の川銀河が形づくられるのは、春——だいたい5月ごろのことです。

長い夏が過ぎ、9月の初め。ようやく、私たちの太陽系が生まれます。地球が姿を現すのも、ちょうどこの頃です。そして9月の下旬、生まれたばかりの地球の海の中で、最初の生命が、ひっそりと産声をあげます。ただし、それはまだ目には見えないほど小さな、たった一つの細胞にすぎませんでした。

ここで、多くの人が驚かされます。それから何ヶ月ものあいだ——秋が深まり、11月を過ぎても——生命は、単純な微生物のままだった、ということです。目に見えるような複雑な生き物が海にあふれ出すのは、ようやく11月の半ばを過ぎてから。じつは、生命の歴史の大半は、「微生物だけの世界」だったのです。私たちが思い描く、動物や植物でにぎわう世界は、実はごく最近の出来事にすぎません。

そして12月。恐竜が地上を堂々と支配するのは、クリスマスの少し前です。あれほど繁栄した恐竜の時代も、宇宙カレンダーの上では意外に短く、12月30日、たった一個の小惑星の衝突によって、あっけなく幕を閉じます。

では、主役であるはずの私たち人類は、いつ登場するのでしょうか。答えは、なんと大晦日、12月31日。それも、夜もすっかり更けた時間帯です。さらに驚くべきことに——ピラミッドを建て、万里の長城を築き、文字を記し、ロケットを飛ばし、スマートフォンを発明した「有史以来の人類文明」のすべては、大晦日の午後11時59分から、日付が変わるまでの、最後のわずか十数秒に、ぎゅっと詰め込まれているのです。

一年のうち、大晦日の、最後の十数秒。それが、記録に残る人類の歴史のすべてです。私たちがこの宇宙において、どれほどの「新参者」であるか。そして、宇宙という物語がどれほど長く、深いものか——この宇宙カレンダーは、それを一瞬で、鮮やかに教えてくれます。

ちなみに、この宇宙カレンダーでは、1日が、およそ3780万年に相当します。1時間なら約158万年、そしてたった1秒でも、約438年もの月日が流れる計算です。私たちの一生まるごとが、このカレンダーのほんの一瞬に過ぎないのも、当然というわけですね。宇宙を測る時間の物差しそのものが、私たちの日常の感覚とは、けた違いに大きいのです。

一人の人生は、この物語のどこにある?

もう一つ、この宇宙カレンダーで確かめておきたいことがあります。それは、私たち一人ひとりの「人生」が、この1年のどこに収まるのか、ということです。仮に80年の生涯を、宇宙カレンダーの上にのせてみましょう。すると、その長さは——およそ0.18秒。まばたき一回にも満たない、ほんの一瞬です。

生まれてから死ぬまで、喜びも悲しみも、出会いも別れも、そのすべてが、この0.18秒に詰まっている。そう聞くと、なんだか虚しく感じるかもしれません。けれど、私はむしろ逆だと思うのです。138億年という途方もない時間の中で、たった0.18秒しか与えられていないからこそ、その一瞬に、あなたがこうして宇宙のことを考え、心を動かしている——それは、限りなく貴重で、かけがえのないことではないでしょうか。宇宙の壮大さを知ることは、自分を小さく感じさせるためではありません。むしろ、この一瞬をどう生きるかを、静かに問いかけてくるのです。

もう一つのたとえ ── 両腕いっぱいの時間

時間の長さを実感するたとえを、もう一つだけ紹介させてください。今、あなたの両腕を、いっぱいに左右へ広げてみてください。左手の指先を「宇宙の誕生」、右手の指先を「現在」とします。この腕いっぱいの幅が、まるごと138億年です。

では、人類の歴史は、この右手のどのあたりにあるでしょうか。恐竜が絶滅したのは、ようやく右手の手のひらのあたり。私たちの祖先が現れるのは、右手の中指の、いちばん先の爪の部分です。そして、有史以来の人類文明のすべては——その爪の先を、やすりでほんのひとこすりしただけで、消えてしまうほどの薄さに収まってしまいます。私たちは、この壮大に広げた腕の、ほんの爪先で生きているのです。

私たちは星のかけら ── 元素が生まれた物語

  今、あなたの手のひらを、じっと見つめてみてください。その皮膚、その骨、爪、そして流れる血。それらを形づくっている原子は、一つの例外もなく、あなたよりずっと古いものです。地球よりも古く、なかには太陽よりも古い原子さえあります。あなたの手は、宇宙の歴史そのものを、握りしめているのです。

冒頭で「私たちは星のかけらだ」とお話ししました。これはこのシリーズ全体を貫く、とても大切なテーマなので、もう少しだけ立ち入ってみましょう。ビッグバンの直後、生まれたばかりの宇宙にあった元素は、実はごく限られていました。もっとも軽い「水素」、そしてその次に軽い「ヘリウム」。ほとんど、この二種類だけです。炭素も、酸素も、鉄も、金も——私たちの体や、身のまわりの世界を作っている、ありとあらゆる元素は、宇宙の初めには、まだ一つも存在していなかったのです。

では、それらはいったいどこで生まれたのか。その答えが「星」でした。星は、いわば巨大な「元素の炉」です。中心部の途方もない高温・高圧のもとで、水素はヘリウムへ、ヘリウムは炭素へ、そしてさらに酸素、ネオン、マグネシウムへと、次々に重い元素へと融合していきます。星が輝いている一生は、そのまま、より重い元素を作り続ける一生でもあるのです。そしてこの反応は、「鉄」という元素にたどり着いたところで、いったん止まります。

重たい星は、その最期に「超新星爆発」という、壮絶な死を迎えます。このとき解き放たれる凄まじいエネルギーが、鉄よりもさらに重い元素——たとえば、あなたの指輪に使われている金や、スマートフォンに欠かせないレアメタルなどを、一瞬で生み出します。そして爆発は、その星が生涯をかけて作りためた元素のすべてを、宇宙空間へと豪快に吹き飛ばすのです。

撒き散らされた元素は、宇宙をただよううちに、ふたたび重力で寄せ集められ、次の世代の星や惑星の材料になります。私たちの太陽も、この地球も、そしてあなたの体も、こうして「前の世代の星たちの死」から受け継がれた元素でできている。今あなたの血の中を流れている鉄の一原子は、遠い昔、どこかの星の中心で生まれ、その星の死とともに旅立ち、46億年前にこの地球へ集まり、そして今、あなたの体を巡っている。そう考えると——夜空に光る星が、少しだけ、違って見えてきませんか。

ついでに言えば、あなたが今日口にした一杯の水、その中に含まれる酸素の原子もまた、はるか昔、どこかの星の中で作られたものです。私たちは、食べるものも、飲むものも、吸う空気さえも、すべて『星々の遺産』の上で生きている。地球という星に暮らす私たちは、まぎれもなく、宇宙という大きな家族の一員なのです。

これから出会う、たくさんの大事件

これから100回の旅で、私たちはたくさんの「大事件」に立ち会うことになります。ほんの少しだけ、予告編としてのぞいてみましょう。

宇宙が生まれてから38万年後、初めて光がまっすぐ進めるようになった「宇宙の晴れ上がり」。暗闇に最初の星が灯った瞬間。星が大爆発を起こして、元素を宇宙にばらまいた超新星。そして46億年前、ガスと塵の渦の中から、太陽と地球が生まれた日。

地球では、火星ほどの大きさの天体が衝突して月が生まれ、灼熱だった地表が冷えて海がたたえられ、その海の底で、最初の生命がともりました。やがて、酸素を作り出す微生物が現れ、地球の空気をまるごと作り変えてしまう「酸素革命」が起こります。5億年ほど前には、生き物の種類が一気に爆発的に増えた「カンブリア爆発」。そして、恐竜たちの栄華と、6600万年前の小惑星衝突による、その突然の終わり——。

これらは、まだほんの一部にすぎません。一つひとつが、それだけで一本の壮大な物語になる出来事ばかりです。この先の回で、たっぷりと、じっくりと味わっていきましょう。

ほかにも、植物や動物が初めて海から陸へと上がっていった大事件。私たち人類の祖先がアフリカで生まれ、やがて世界中へと広がっていった壮大な旅。そして1万年ほど前に始まった、農業と、都市と、文明の誕生——。この小さな地球の上だけでも、まだまだ数えきれないほどの物語が、あなたを待ち受けているのです。

  【本編7:私たちの宇宙の「住所」】

時間の途方もなさを感じてもらったところで、これから旅する舞台「宇宙」が、どれほど広いのかも、少しだけ味わっておきましょう。私たちの住所を、宇宙規模で書いてみます。

まず、地球。地球は、太陽のまわりを回る8つの惑星のうちの、一つにすぎません。その太陽系は、2000億個以上もの星が集まった「天の川銀河」の、ほんの片隅にあります。銀河の中心から、およそ3万光年も離れた、ごくありふれた場所です。決して特等席ではありません。

そして、その天の川銀河でさえ、宇宙にたった一つというわけではありません。私たちが観測できる範囲だけでも、銀河の数は数千億——一説には、2兆個もあるとも言われます。その一つひとつに、また数千億の星が輝いている。想像してみてください。夜空に見える星は、そのほとんどが、天の川銀河の中の、ごく近所の星たちにすぎません。その向こうに、気の遠くなるような数の銀河が、さらに果てしなく広がっているのです。

この途方もない「広さ」と、138億年という途方もない「時間」。その二つが交わる、たった一点に、まるで奇跡のように、私たちの地球と、あなたと、この瞬間があります。この壮大な舞台の全体を、これから100回かけて、隅々まで旅していきましょう。

この旅の見取り図

それでは、これから始まる138億年の旅の「地図」を、先に少しだけお見せしておきましょう。この旅は、大きく分けて11の章、全100回で構成されています。

前半は「宇宙編」です。ビッグバンの正体から始まり、最初の光が解き放たれた瞬間、暗黒の宇宙に初めて灯った星、そして銀河や私たちの太陽系がどう生まれたのかを、順を追ってたどっていきます。

中盤は「地球編」。無数の岩のかたまりが衝突を繰り返して地球が形づくられ、巨大な天体の衝突から月が生まれ、灼熱だった地表が冷え、やがて青い海がたたえられていく——私たちの故郷が誕生していく物語です。

そして後半は「生命編」、さらに「人類編」へと続きます。たった一つの細胞から始まった生命が、酸素を生み出して大気そのものを作り変え、多細胞の生き物へと複雑になり、海から陸へと上がり、恐竜の繁栄と絶滅を乗り越えて、やがて私たち人類にたどり着くまでを描きます。

宇宙は、なぜ複雑になっていくのか

このシリーズを最初から最後まで貫く、たった一つの大きなテーマがあります。それは、「宇宙はどんどん複雑になってきた」ということです。素粒子から原子へ。原子から星へ。星から惑星へ。惑星から生命へ。そして生命から、宇宙そのものについて考える人類へ。何もなかったところから、これほど豊かで複雑な世界が立ち上がってきたのです。

でも、これは少し不思議なことだと思いませんか。ふつう、放っておいたものは、散らかり、崩れ、単純な方向へ向かうように思えます。熱いコーヒーは冷め、積み木の塔はいつか倒れる。それが自然のなりゆきです。それなのに宇宙は、まるで複雑さへ向かって階段を登り続けるように、次々と新しいものを生み出してきました。

なぜ、そんなことが可能だったのでしょうか。その秘密の多くは、「エネルギーの流れ」と「重力」、そして「時間」にあります。太陽という莫大なエネルギーの源があり、重力が物をせっせと集め、長い長い時間がそれを許してきた。この三つがそろったとき、宇宙は驚くほど創造的になれるのです。この「複雑化のからくり」も、旅を進めるなかで、少しずつ解き明かしていきます。

言いかえれば、この宇宙は、ただ古びて崩れていくだけの世界ではありません。時間がたつほどに、より新しく、より複雑で、より面白いものが生まれてくる。星が、生命が、そして「考える心」が。その創造の最前線に、今まさに、私たち自身が立っている——そう思うと、この宇宙に生まれてきたことが、少しだけ誇らしく感じられないでしょうか。

なぜ138億年前のことが分かるのか

ここで、鋭いあなたは、こんな疑問を抱くかもしれません。「誰も見ていなかった大昔のことが、どうして分かるのか」と。これは、とても大切な問いです。科学は、決して想像でお話を作っているわけではありません。きちんとした「証拠」に基づいています。今日は、その代表的な三つを紹介しておきましょう。

一つ目は、なんといっても「光」です。光の速さは有限で、宇宙を進むのには時間がかかります。太陽の光が地球に届くまで、およそ8分。つまり、私たちが見ている太陽は、つねに8分前の姿なのです。もし今この瞬間に太陽が消えても、私たちがそれに気づくのは8分後。同じように、100億光年かなたの銀河を望遠鏡でとらえたなら、それは100億年前に放たれた光を見ていることになります。遠くを見ることは、そのまま過去を見ること。宇宙は、私たちに巨大なタイムマシンを与えてくれているのです。

その光の証拠の、極めつけがあります。宇宙が誕生してからおよそ38万年後に放たれた「最初の光」です。それは今なお、宇宙のあらゆる方向から、かすかな電波として地球に降り注いでいます。「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれるこの光は、いわば宇宙が赤ちゃんだった頃の記念写真。私たちは、138億年前の宇宙の姿を、想像ではなく、実際に受け取ることができているのです。

二つ目は、地球そのものに刻まれた記録です。地層は、ページを積み重ねた一冊の本のように、下から上へと時代を記録しています。そこに埋もれた化石は、過去にどんな生き物がいたのかを教えてくれます。さらに、岩石に含まれる放射性元素は、決まったペースで別の元素へと変化していくため、いわば「天然の時計」として、その岩石がいつできたのかを、高い精度で測ることを可能にしてくれます。

三つ目は、理論と計算です。物理学の法則は、この実験室の中でも、宇宙のはるかかなたでも、まったく同じように成り立っています。だからこそ、今の宇宙を観測し、その法則を過去へさかのぼって計算すれば、大昔に何が起きたのかを再現できるのです。観測と、記録と、理論。この三つを丹念に照らし合わせることで、科学は宇宙の年代記を、一枚ずつ、慎重に復元してきました。

コラム:人類は、どうやって宇宙を知ったのか

そして、忘れてはならないことがあります。この壮大な年代記を、一歩ずつ解き明かしてきたのが、ほかならぬ「人類」だということです。ほんの数千年前まで、人々にとって空は、神々の住まう、手の届かない神秘そのものでした。夜空を見上げ、星の並びに神話の英雄や動物を重ね、その動きから季節を読み、暦を作る。それが、人類と宇宙の最初の対話でした。

流れが大きく変わったのは、今からおよそ400年前のことです。ガリレオ・ガリレイが、自作の望遠鏡を初めて夜空へ向けました。すると、月の表面にはでこぼこのクレーターがあり、木星のまわりには小さな衛星が回っている。それまで「完全で神聖」と信じられていた天が、地上と同じ物理法則に従う世界だと分かった瞬間でした。それ以来、人類はレンズを、そして知恵を磨き続けます。今では、山の上にそびえる巨大望遠鏡、宇宙空間に浮かぶ観測衛星、さらには地下深くに据えられた検出器までを駆使して、宇宙の始まりの瞬間へと、必死に手を伸ばし続けているのです。この138億年の物語は、数えきれない探究者たちの、好奇心のリレーによって明らかにされてきました。そして今、そのバトンは、この動画を見ているあなたにも、確かに手渡されています。

わいてくる、素朴な疑問たち

宇宙のことを考え始めると、次々と素朴な疑問がわいてきます。宇宙に果てはあるの? その外側には何があるの? 宇宙人はいるの? 宇宙はこの先どうなってしまうの? ——どれも、まるで子どもが投げかけるような問いですが、実はどれもが、最先端の科学者たちが今なお真剣に挑み続けている、手ごわい難問ばかりなのです。

このシリーズでは、こうした「大きな問い」からも逃げずに、今の科学がどこまで答えられていて、どこからが未解決なのかを、正直にお話ししていきます。分からないことを「分からない」と言えるのも、科学の誠実さです。すべての答えが、きれいに出そろっているわけではありません。だからこそ、宇宙の探究は、これほどまでにスリリングなのです。

この旅で、味わってほしいこと

この旅を始めるにあたって、一つだけ、あなたに味わってほしいことがあります。それは、「自分もまた、この物語の一部なのだ」という感覚です。

138億年の物語は、決して他人事ではありません。あなたが今、この動画を見て、宇宙のことを不思議に思い、少しでも心を動かされている——その「考える心」そのものが、実は138億年におよぶ複雑化の果てに生まれた、宇宙の一つの到達点なのです。ある科学者は、こんな言葉を残しました。「私たちは、宇宙が自分自身を知るための手段なのだ」と。星くずから生まれた私たちが、その星くずの起源を問う。宇宙が、私たち人類を通じて、自分自身を見つめている。これほど不思議で、これほど胸躍ることが、他にあるでしょうか。

このシリーズを見終える頃には、夜空の見え方も、そして「自分」という存在の感じ方も、きっと少しだけ変わっているはずです。難しい数式は、一切必要ありません。必要なのは、あなたが子どもの頃に持っていた、あの「なぜ?」という純粋な好奇心だけ。それさえあれば、この138億年の旅は、あなたにとって最高の冒険になるはずです。

さあ、心の準備はよろしいでしょうか。重たいカバンも、パスポートも要りません。この旅に持っていくのは、あなたの好奇心、たったひとつだけです。

  【本編13:このシリーズの楽しみ方】

最後に、このシリーズの楽しみ方を、少しだけ。全100回は、時代の流れに沿って進んでいきます。ですから、第1回から順番にご覧いただくと、宇宙の物語が一本の大河ドラマのようにつながって、いちばん深く楽しめる作りになっています。もちろん、気になる回だけをつまみ食いしていただいても、まったく構いません。

毎回、その回の要点を最後にきちんと振り返り、次回への「予告」でしめくくります。予備知識は、まったく必要ありません。専門用語が出てきても、必ず身近なたとえでかみくだいて説明しますので、どうぞ安心してついてきてください。もし「ここをもっと知りたい」「この説明が分かりにくかった」という点があれば、ぜひコメントで教えてください。あなたの疑問こそが、このシリーズを、もっと面白いものにしてくれます。

この物語は、まだ終わっていない

もう一つ、とても大切なことをお伝えしておきます。この138億年の物語は、けっして「過去の話」ではありません。今この瞬間も、宇宙は膨張を続け、遠くの銀河は刻一刻と遠ざかっています。どこかで新しい星が生まれ、また別のどこかで、星が静かに最期を迎えている。地球の上でも、生命は今なお進化を続け、そして私たち人類は、自らの手で、地球の気候や地形さえも変えつつあります。

つまり、この物語の「現在のページ」は、ほかでもない、あなたと私が、今まさに書き込んでいる最中なのです。そして、その先に広がる『未来』のページには、まだ何ひとつ書かれていません。この壮大な物語の、いちばん新しい登場人物として、私たちがこれから何を選び、どんな未来を描いていくのか。それを考えるためにも、まずは『自分たちがどこから来たのか』を知ることが、きっと大きな助けになるはずです。

まとめ

さて、長い第1回も、そろそろ終わりです。今回のポイントを振り返りましょう。ひとつ、私たちの体は、星の中で作られた元素でできている。文字どおり、私たちは「星のかけら」です。ふたつ、宇宙の138億年を1年のカレンダーに例えると、人類文明のすべては、大晦日の最後の十数秒に収まってしまう。それほど宇宙の歴史は長く、私たちは新参者なのです。みっつ、光・地層・理論という確かな証拠のおかげで、私たちは太古の出来事を科学的に知ることができる。そしてよっつ、このシリーズ全体を貫くテーマは、「素粒子から人類まで」続いていく、壮大な複雑化の物語だということ。

この四つを胸に、次回からいよいよ、138億年の旅の第一歩を踏み出していきます。宇宙という、私たちが手にしうる、もっとも大きく、もっとも古い物語。その記念すべき最初のページを、次回、あなたと一緒に、そっとめくっていきましょう。

次回予告

 その第一歩は、もちろん「ビッグバン」——すべての始まりの瞬間です。ところが、ここで最初の大きな誤解を、先に解いておかなければなりません。「宇宙は大爆発でドカンと始まった」。よく耳にするこのイメージ、実は、ほとんど間違っているのです。ビッグバンは、私たちが思うような「爆発」ではありませんでした。空間のどこか一点で、何かが飛び散ったのではない——。では、いったい何が起きたのか。そして、宇宙に「中心」がないとは、どういうことなのか。次回、『ビッグバンとは何か』。すべての始まりの、本当の姿に迫ります。どうぞ、お楽しみに。

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この記事を書いた人

宇宙の「なぜ」を解明できないか日々真実を探し求め、新しい発見にワクワクしている。

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